東京藝術大学 美術学部 デザイン科 Tokyo University of The Arts, Department of DESIGN

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教員インタビュー

Interview : Environmental Design Studio


環境・設計研究室 / 清水泰博教授

環境・設計研究室 教授 清水泰博

1957年生まれ、京都府出身。父は金属彫刻家の清水九兵衞。81年早稲田大学理工学部建築学科卒業。83年東京藝術大学大学院美術研究科修了。黒川雅之建築設計事務所を経てSESTA DESIGNを設立。2010年より現職。現在はデザイン科科長も務める。一級建築士。主な作品は「御母衣ダムサイドパーク・御母衣電力館」(岐阜県)、「月見橋」(静岡県)、「平和の交響」(兵庫県)など。環境芸術大賞受賞(1991、95)ほか受賞多数。著書に『景観を歩く京都ガイド』『京都の空間意匠』など。


―デザインとは?

一言でいうと「メッセージ」ですね。デザインは人へのメッセージですから、それをはっきりさせないと意味がないということです。私が独立して間もない頃、師事していた建築家の黒川雅之さんから「あんまりものづくりに専念しちゃだめだよ、我々はメッセージを送っているんだから」と言われたことがありました。また、黒川さんは「毒を盛れ。良いものばかりにするな」とも言っていたことがありますが、何か引っかかるようなものがないとダメなんだろうなと思います。

―個人の活動として何をしてきましたか。

私は元々建築家ですが、ランドスケープや家具、プロダクトのデザインもしていて、様々なジャンルのデザインを「環境デザイン」という考え方でやっています。「環境デザイン」は「関係のデザイン」とも言えると考えているのですが、例えばAがあることによって隣にはこういう色や形をしたBを置くべきという事が決まり、その後のCや他のものも決まってくる。環境からモノの形が出てくるように思っています。またそれらは全てその環境にいる「人の居場所」を中心につくっていると言えます。

例えば、岐阜県の御母衣ダムサイドパーク(御母衣電力館)では、正面に見えるダムに対峙し、呼応する建築とはどういう形であるべきかということを考えました。ダムに向かって建築からの視界がひらけるように駐車場は裏に持ってくる、建築の窓は横長のピクチャーウィンドウとし、前面の池はダムの倒立景がより見えるように水面のレベルを上げるというふうに。この場所がどういう場所なのかをロケーションスコアに記述してデザインしていきました。ワインボトルのデザインにしても、この空間で人が食事をするときにどんなワインボトルがそばにあるといいだろうと考える。いずれもその環境と、そこにあるモノとの関係を考えて「人の居場所」をつくっています。

御母衣ダムサイドパーク

御母衣ダムサイドパーク(御母衣電力館)では、この場所でのあり方から、その配置、建築設計、ランドスケープデザインを行った

また、歩行によって移り変わっていく風景、シークエンスに関心があって、藝大の先端芸術表現科の教授で作曲家の古川聖先生と、東京工業大学教授で設計方法論の研究者の藤井晴行先生との共同研究では、庭園散策を音楽にするという試みを行いました。桂離宮のような回遊式庭園は、いろんな世界を巡ってくる旅のようになっているんですが、庭園の散策というのはひとつの音楽を聴くようなものではないかと思ったのです。具体的には、私が桂離宮を歩きながら注目した空間やモノに合わせて、古川先生が音楽的要素をつけていきました。池が見えるとこの楽器がこう鳴るとか、橋が見えるとこのテーマが出てくるとか。そういう歩行の印象から音楽をつくるという作曲の方法論の実験でした。

―研究室の活動として何をしていますか。

最近研究室で課題としているのは「サスティナブル・コミュニティ」。持続的なコミュニティの場を考えるということで、身近なところ、例えば自分の住んでいる町内とかでのデザインです。東日本大震災のときに特に感じたことなのですが、現代ではインターネットやSNSで色々な人と友達になっているけど、身近な近所の人を知らないんじゃないかと思いました。でも、震災などが起こったら頼りになるのは身近な人なんです。そこで、近所の人と普段から親しくなるにはどのような場や仕組みがあればいいかというのをテーマにしています。例えば、犬を飼っている人同士は、犬同士が友達になりますから、知り合いになるんですね。この課題の中で、ある学生は上野駅に「鍋料理の店」をつくるという提案をして、店舗の企画と設計をしました。ここでは自分が鍋の具材になるという想定なのですが、鍋の具材の牛肉であるAさんが行くとが牛肉が半額になる、春菊であるBさんが行くと春菊が半額になる……といった仕組みをつくるというものでした。この店の常連になって行けば行くほど、春菊や豆腐から牛肉へと次第に自分のランクが上がり、その店にいる知らない人に重宝される。ここに通っている知らない人と鍋を囲み、友達になりやすくなるというわけです。

ほかには、私が関わっている藝大キャンパスグランドデザイン室と共同で「藝大Hedge」というプロジェクトを続けています。2014〜16年に行った「藝大保存林」再生プロジェクトの延長で、藝大の上野キャンパスの道路との境界部分の柵を取り払い、武蔵野の豊かな植生の刈込み(Hedge)にしようということで、造園家の田瀬理夫さんに植栽指導をしていただきながら、学生や教職員、一般の方たちとともに進めています。

「藝大ヘッジ」の植樹

「藝大ヘッジ」の植樹は2016年からすでに3回実施。武蔵野の植生から選んだ約30種の苗木を混植で植樹し、その後は剪定により刈込み(Hedge)として季節感のある柔らかい境界をつくりだそうとするもの

学外では、今は彫刻科の北郷悟先生の研究室とともに「自由が丘×東京芸大 アート&デザイン・プロジェクト」をやっています。このプロジェクトで私の研究室では「街への愛着を持てるアート&デザインプロジェクト」をコンセプトに、リニアポケットパークというベンチ等のストリートファニチャーを置く提案だとか、路上に設置されている車止めに即興で絵を描くパフォーマンスを行ったりして、それらによって街がどう変わるかという実験を兼ねてやっています。  

2018年3月〜5月に開催された「自由が丘×東京芸大 アート&デザイン・プロジェクト」

2018年3月〜5月に開催された「自由が丘×東京芸大 アート&デザイン・プロジェクト」では、野村證券前の車止めに藝大各科の学生が即興で絵を描くパフォーマンスも行った。(イベント時のみの展示だったのが、先方の要望で今では恒久展示になっている)

―学生にどんなことを望みますか?

学生によく言うのは「もう少し引いてみろ、その場所、モノだけを見るな」ということですね。そういう視点は環境デザインに必要だと思います。建築家などは得てして敷地主義になりやすいんですよ。この敷地に建てるんだからということで、周りがよく見えなくなることが多いのです。環境デザインでは俯瞰的に見ることを心がけなければなりません。

―幸せとは?

自分が何をやったかではなく、人のために何ができたのかということ。それが結果的に幸福感につながるのかなと今は思っています。

(取材・構成:小林沙友里)