東京藝術大学 美術学部 デザイン科 Tokyo University of The Arts, Department of DESIGN

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教員インタビュー

Interview : Moving and Still Image Studio


映像・画像研究室 / 箭内道彦准教授

映像・画像研究室 准教授 箭内道彦

1964年生まれ。福島県郡山市出身。90年に東京藝術大学美術学部デザイン科を卒業、博報堂に入社。2003年に独立し「風とロック」を設立。タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」、資生堂「uno」、サントリー「ほろよい」、リクルート「ゼクシィ」など数々の話題の広告キャンペーンを手がける。10年にロックバンド「猪苗代湖ズ」を結成。15年には福島県クリエイティブディレクターに着任、監督映画『ブラフマン』公開、「渋谷のラジオ」を設立。16年より現職。著書に『871569』(講談社)、『広告ロックンローラーズ』(宣伝会議)など。


―デザインとは?

研究室の紹介文では、「デザインは、綺麗な包装紙ではなく、社会の課題を解決するアイデア。困っている人を助ける仕事。今に足りぬ必要なものを、謙虚につくり続けること」と書いていますね。とはいえ、綺麗な包装紙をつくるのもデザインですし、答えはひとつじゃない。ただ、「デザイン=高貴なもの」みたいな扱われ方が嫌で。いわゆる真っ赤な携帯電話とか流線形の車とか、素晴らしいデザインなんだけど、一部の人の嗜好品なだけになってしまうのはつまらないなぁとも思うんです。例えばお母さんが幼稚園に通う我が子に一生懸命つくったお弁当だって素敵なデザイン。僕としては「世の中に今必要な面白いこと」をしたいんですよね。そのために映像がベストなら映像でもいいし、音楽なら音楽でもいいし、オブジェでも、言葉でもいいんです。

―個人の活動として何をしてきましたか。

主に広告をつくってきました。人の魅力やパワーを最大化することに非常に興味があります。人が、今まで見たことがないくらい美しく輝いているとか、いつもの10倍笑っているとか、人間が最大化される瞬間ってあるんですよ。そこには企画とか演出とか表現、デザインというものが重要な役割を果たす。アウトプットとして、それが結果として、CMだったり、ポスターだったり、イベントだったり、番組だったり、場だったり、形は様々ですが、僕にとっては全て「広告」なんですよね。

人と会って、ものをつくっていないと、自分のいろんなものが一気に鈍るだろうなと思います。僕はずっと研究をしてきたわけではないし、教育のスペシャリストでもない。だから自分の今日の疾走の間近で、学生に何かを感じてもらうことしかできないんじゃないかとも思います。

―研究室の活動として何をしていますか。

映像・画像研究室は、前任の箕浦昇一先生から引き継いだんですが、いずれ研究室名を変えられたらと思ってるんですよね。「私は映像やりたいからここ」「私は映像じゃないからここじゃない」みたいなセグメントは違うと思っていて。ある学生が「私のつくっているものを褒めたのは箭内先生しかいない」と笑っていたんです。それがこの大学での自分の存在理由でもあるのかもしれません(笑)

シンガーソングライター阪本奨悟のデビューシングル『鼻声』のMV 抜粋

シンガーソングライター阪本奨悟のデビューシングル『鼻声』のMV。監督:三町綾(学部4年※当時)

具体的には例えば、阪本奨悟さんのデビューシングルのミュージックビデオとリリース告知のCMを研究室でつくりました。僕のところにオファーが来たんですが、だったら藝大の研究室でやりませんかと提案して。それで研究室の学生達に「明日打ち合わせするぞ」って言ったら、ひとりの学生が長編の絵コンテをいきなり一晩で書いてきたんです。その学生が監督を担当したんですが、そういう初期衝動は大事ですね。阪本奨悟と学生たちが同世代の表現者同士だからこその刺激の交換ができていました。

上野にあるPARCO_ya(パルコヤ)の日比谷花壇のウィンドウディスプレイも研究室で手がけています。上野にPARCOができるときに、藝大の地元だし、一緒に何かできたらとPARCOの人と話していて実現しました。この前上野を歩いていたら、女性が駆け寄ってきて、「PARCO_yaのウィンドウが大好きで、調べてみたら箭内さんの研究室でつくってると知って、お礼を言いたかったんです」と声をかけてくれました。学生たちにはできるだけ机上訓練じゃなく現場実践を通して、受け取る人の反応を生で感じてくれたらと思っています。

まだ情報解禁前のプロジェクトも複数ある中、僕の仕事柄、「東京藝大を広告する」さまざまも、研究室のメンバーとともに進めています。

日比谷花壇PARCO_ya上野店大型ディスプレイ

日比谷花壇PARCO_ya上野店の幅8.4メートル、高さ3.7メートルの大型ディスプレイ。1年を通じて全4回、物語形式のインスタレーションを展開

―学生にどんなことを望みますか?

今だけしかない青さとかヒリヒリ感がないとつくれないものだけをつくっていてほしい。「社会連携」という言葉がありますけど、大人のやることを真似することじゃなくて、東京藝大の学生にしかないエネルギーをを放射することが社会と繋がることなので。君たちはプロのミニチュアみたいなことをやる人じゃないんだぞと。だってそうじゃなかったらプロの巧い人に頼めばいいんですよ。そんなことは社会に出たらいくらでも体験させられるし、挫折もする。今はボールの投げ方を覚えるより、強い地肩を鍛えておくことのほうが大事。巧くなくていいんです。

中途半端に終わった虚しさも、大学で認められなかった悔しさも、のちの大きなエネルギーになる。僕は藝大の学生だった時、非常に成績の悪い劣等生だったんですが(笑)、あのときできなかったから、今も燃え続けています。失敗するなら大失敗してほしいし、大失敗できなかった失敗にもちゃんと向き合うことで、学生にはつねにモヤモヤしててほしい。それを一旦は強烈なコンプレックスに感じてほしいし、今に見てやがれって思い続けてほしいですね。

それともうひとつ。「人たらし」の力を身につけよと言ってます(笑)。それはこれから社会で自分が為すべきデザインを確実に実現してゆくために絶対必要な基礎能力です。

―幸せとは?

忌野清志郎さんがいつもステージから言っていた「愛し合ってるかい?」という言葉があって。今の時代って、強く愛してはいるけれど、それが一方的に自分の思いを掲げるだけで、人と人が愛し合ってはいないことも多いんじゃないかと思うんです。愛し合うこと、違う互いが力となり、新しい形を生むことは、僕たちにとってとても幸せなことであると思います。

(取材・構成:小林沙友里)