東京藝術大学 美術学部 デザイン科 Tokyo University of The Arts, Department of DESIGN

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理念と組織構成Department of Design

教員インタビュー

Interview : 7th Studio / Design Experience


第7研究室 / 山﨑宣由教授

第7研究室 准教授 山﨑宣由

1969年生まれ。千葉県出身。93年東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。95年 同大学院美術研究科デザイン専攻修了。同年より総合デザイン会社にてグラフィックデザイン、プロダクトデザイン、デザインコンサルティングに従事。2005年からNECに移籍しプロダクトデザイン、ソリューションデザイン及びデザインマネージメントを行う。その後イノベーション創造におけるデザイン機能を組織化するために同社デザインセンター長を務める。2016年より現職。


―デザインとは?

つねにポジティブで、ときにおせっかいで、根底には慈愛心があるのがデザイン。「デザインは愛である」というのは、かつて藝大で教鞭をとられていた、日本のインダストリアルデザインの第一人者といわれる小池岩太郎先生の言葉で、母が子を思うのと同じように、対象となる相手を思い、いつでも何事にも意識し考えているのがデザインということです。そしてそれは、様々な知識・経験・感情を紡いで「関係づけるチカラ」であり、様々を束ねて「本当の価値を創り上げるチカラ」です。誰かを幸せにするために、もっと優しく、楽しく、美しく、魅力的にするために。共感を支えにして自分の感性を発揮する、そして世の中へ新たな喜びや感動、さらには夢を提供するものです。過去も現在も未来もポジティブに捉え、五感/六感をめいっぱい使って世の中の風を読む。必要なのはプロダクトなのかインタフェースなのか、ソリューションやサービスなのか、何なのか。見えない不安を好奇心と創造力で払拭し、強い思いと情熱で今やるべきひとつの事を成し遂げようとする……冒険みたいなもんだなと思います。

―個人の活動として何をしてきましたか。

卒業後、総合デザイン会社に10年勤め、グラフィックやプロダクトのデザインから事業企画やコンサルまで様々なクライアント企業と色々なことをやっていました。その後NECで12年、パソコンや携帯電話などのプロダクトデザイン、産業機械などのユーザーインタフェース、社会課題解決のためのソリューションデザインとそれらのプロセス設計やマネジメント、さらにはデザインセンター長としてクリエイティブ人材の育成や組織デザイン、といったことをしていました。今でも企業や業界団体のアドバイザリーもしています。

実は大学の卒業制作と大学院の修了制作はテーブル(家具)を作りました。当時テレビなどのメディアが暮らしの中心になり、家族や人の集まり(団欒)といった暮らしコミュニケーションが少なくなっていること、暮らしの中の安らぎや、物や道具に対する愛着が希薄になっていることに対する問いかけとしてでした。考えてみれば、テーブルも当時の団欒のあり方を、携帯電話やプロダクトは長く持ち続けられる愛着を、組織デザインはお互いの個性や感性で相乗できる関係性を考えていて、いずれも「情」の回帰というモチベーションでやっているという意味では変わりないもかもしれないですね。

デザインを手がけた《くらしのあかり:Drum lamp》(2017)

デザインを手がけた《くらしのあかり:Drum lamp》(2017)

―研究室の活動として何をしていますか。

ソリューションデザインを起点に、プロダクトやインタフェースやサービスの価値をいかに高めるかを研究し、それらのデザインとプロデュースを探求します。そこで目指すことは3つあります。

研究室学生・大嶋光恵による「光る花」の演出

研究室学生・大嶋光恵による「光る花」の演出

1つめは「ないものをつくる」。これまでにない魅力を創造したり、未来の可能性を具現化したりするイノベーションを目指すものです。新しいUX(User Experience;ユーザー体験)を生むものをつくるということですね。例えば、2017年にはバイオテクノロジーの分野で研究開発されている「光る花」(NECソリューションイノベータ)をこれからの生活に取り入れる、生活演出のデザインを行いました。また、2018年は東京医科歯科大学生体材料工学研究所と体の中に取り込めるマイクロデバイス等のデザイン共同研究を始めています。人が新しいものや異物をどうしたら使いたいと思うのかを考察し、プロダクトやサービスとしてデザインする。「演出」を掲げている研究室として、「使いやすい」よりも、「使いたくなる!」を創造するということを目指しています。

2つめは「捉え方を変える」。かつて使われていたけれど使われなくなったものから新たな魅力を誘発するリノベーションです。「0」から「1」をつくることはなかなか難しいですが「-(マイナス)1×-(マイナス)1」は「1」を生み出す可能性があります。廃れてしまうとそれきりになってしまうもの多いですが、ウィークポイントも別の視点で捉えたり、別のウィークポイントと掛け合わせることによって、新たな価値を生み出せる可能性は多くあります。最近では、自動車などモーター化のトレンドの中で無くなりつつあるエンジンについて、どうしたら今後も使われる魅力が訴求できるのかなどメーカーと研究しています。効率的な技術や道具への転換も進む中、若い世代にはもっと情緒的で使っている実感があるものを求める志向も増加傾向にあるのです。

3つめは「デザイン領域を区切らない」。かつてはモノづくり中心だったデザインも、いわゆるコトづくりなんて言われるようになって久しいですよね。現実としてスマホのようにプロダクトとインタフェースとサービスが複雑に絡み合ったものが一般化してIOTの具現化が進み、デザインはトータルに考えざるを得なくなりました。それに、実社会の中で行うデザインは、かつてのデザイン領域でくっきり分かれていることは少なくなっています。いつも赤いクレヨンだけを使うってことはなくて、どんな時にどんな色を使うのが最良か、どんなたくさんの色(選択肢)があるのか、様々な経験や知識を蓄え、判断するディレクション力、プロデュース力が必要になっています。それによって難題や大きな壁に立ち向かうことができるのです。デザインが必要とされる様々なシーンにいかに数多くの経験や知識が必要か、それらを学生が実感するためのスタディツアーや創造的ワークショップの演出を行っています。

あかりの日ワークショップの様子

2017年に日本照明工業会が主催する「あかりの日」で親子のためのLEDを使った“ものづくり”工作教室の演出を行った

―学生にどんなことを望みますか?

研究室に入るときは、まだ何がやりたいか決まっていなくてもいいと思います。多趣味だったり好奇心旺盛だったりしていろんなことにポジティブなことが大事だと言っています。やりたいことってひとつじゃないはずだから、たくさん遊んでたくさん知って、いろんなことを引用したり結びつけたりして、新しい領域や価値を作ればいいじゃん、と。世の中がどうなっていけばいいのかを考えながら経験を積み重ねていくうちに、デザインやプロデュースをする目と心が育っていくものです。進路としては、就職する学生が多いですね。社会に出て、世の中にデザインで貢献してほしいです。作家になるという人はほとんどいないと思います。

―幸せとは?

考えること、創ること、ふるまうこと。そしてみんなが将来に期待や希望を持てること。身近に笑顔があふれていること。知っている人はもちろん、知らない人の笑っている声、子供たちの笑い声が聞こえてきたりすると幸せな気持ちになります。今、デジタルだけでいいのか?人と人のコミュニケーションはどのくらいあるのか?人間らしく喜怒哀楽と知恵を持って、人との関わり合いのある心ある暮らしをしているのか?……効率か、それとも情緒か。その両方をデザインの中で考え、人が豊かに生きられる未来のために研究を実践していきたいですね。

(取材・構成:小林沙友里)