教員インタビュー
Interview : 9th Studio / Design Embody
第9研究室 / 橋本和幸教授
1965年生まれ、神奈川県横浜市出身。93年東京藝術大学大学院美術研究科構成デザイン専攻修了、鹿島建設株式会社入社。ホテル、住宅、商業施設などのインテリアデザインを多数手がける。2006年より教職に就き、アート、建築、インテリア、ディスプレイ、プロダクトなど空間に関するデザイン全般を研究する一方、展覧会などの空間デザインや美術作品の発表も行う。15年「光州デザインビエンナーレ」では日本ブースデザインとキュレーションを担当。16、17年には「TOKYO数寄フェス」で「ティーテイスターフォレスト」を出展。17年より現職。
――デザインとは?
生活に欠かせないもので、生きる喜びを与えるもの。やはりそこには芸術性の高いものが必要だと思います。藝大で、芸術のなかのデザインとして考えるならなおさら。効率的なものだけじゃなくて、きれいなグラフィックや彫刻があったりして、生活を豊かにするものであってほしいじゃないですか。
――個人の活動として何をしてきましたか。
インテリアデザインとアート活動をパラレルにやってきました。最近はアートプロジェクトとして移動式住居や移動式茶室を発表して暮らしを見つめ直し、豊かさや幸せとは何か?という問いへの答えを探りながら、建築や映像なども含め、領域を超えた活動を行っています。
移動式茶室は「素敵な景色を眺めながらお茶をいただく」というコンセプトでやっています。「TOKYO数寄フェス」に出展した伊藤園との共同プロジェクト「ティーテイスターフォレスト」では、これが上野公園のさまざまな場所に出没し、お茶のスペシャリストがお茶を振舞うことで、暮らしのあり方や豊かさについて考え直すきっかけを提供しました。
――研究室の活動として何をしていますか。
空間造形や立体造形の基礎から応用までの研究ですね。基本的には素材をベースに立体造形やデザインを考えていくという伝統的なやり方です。学生にはインテリアデザインをしたい人もいれば、テレビのセットをつくりたいという人、造形作家志望の人もいます。
「Suicaのペンギン」や「チーバくん」で知られる坂崎千春さんの「さかざきちはる おしごと展」は、まず藝大のデザイン科プレゼンテーションルームで私が空間デザインをして展覧会を開催しました。その関係で次は事業として大学で受託して、千葉県の市川市芳澤ガーデンギャラリーでの展覧会の空間デザインを学生と行ないました。チーバくんをもとにした日本地図のパズルをつくったり、絵本を読むためのスペースをつくったり。グラフィック的な要素もあれば、映像もあって、それぞれをいかに空間に落とし込むかをともに設計しました。
――学生にどんなことを望みますか?
僕は学生に、こうしろ、ああしろ、と言わないタイプです。なるべくいろいろな思考をしてほしいなと思うので。ほかの人とは違うことをやろうよっていうのはありますけどね。あとは、なるべく「無駄なこと」をたくさんやったほうがいいと思っています。そうすることで見えてくるものがありますから。普通の人は無駄なことをやろうとしないので、そこを敢えてやってみて、そこに何があるのかを探るということも未知のものへの挑戦なのかなと。
僕の研究室は取手にアトリエがあるので、大きな空間を使ってダイナミックなものづくりをする人が来てくれたらいいなと思います。取手キャンパスには木材造形や塗装造形などさまざまな設備がある「共通工房」という施設があるんですが、それも使い倒すくらい活用して制作してほしいですね。
――幸せとは?
「無駄なこと」に時間をかけることが豊かで、幸せなことなんじゃないかと思います。やっている本人はまったく無駄だと思っていなかったりするんですけど(笑)。物にしても、一見無駄のように見える装飾があることによって愛することができたりしますよね。
また、新しいものをつくるだけでなく、経年変化を楽しむことも含めて、良いものを発掘したり残したりするのもデザインであって、それも豊かさ、幸せにつながるのかなと。僕が木を使う理由には、一番身近で誰でも使える素材だからということと、経年変化がおもしろいからということもあるんです。
ちなみに移動式住居「幸庵」シリーズの一環で、大分県杵築市の茶畑や香川県引田市で移動式住居の映像を制作したんですが、ドローン撮影は航空許可を持っている息子にしてもらったんです。普段息子と話すことはあまりありませんが、撮影をしてもらうことで、結果的に一緒に旅をしてひとつの作品をつくり上げることになり、これも幸せなことだなと思いました。
(取材・構成:小林沙友里)