東京藝術大学 美術学部 デザイン科 Tokyo University of The Arts, Department of DESIGN

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教員インタビュー

Interview : Visual Communication Studio


視覚・伝達研究室 / 松下計教授

視覚・伝達研究室 教授 松下計

1961年生まれ、神奈川県出身。1985年東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。1987年同大学院デザイン科ビジュアルデザイン専攻修士課程修了。1990年に松下計デザイン室を設立。1997年にJAGDA新人賞、東京ADC賞、文部科学大臣賞、グッドデザイン賞受賞。2010年よりグラフィックデザイナー、アートディレクターとして、グッドデザイン賞のディレクション、21_21 DESIGN SIGHTの企画展カタログ、特別展「運慶」の広報ディレクションなどを手掛ける。2014年より東京藝術大学附属図書館の館長、2018年より副学部長も務める。


―デザインとは?

人の集団が起こす運動、経済や文化を回していくモーターのような存在かなと思います。サイエンスやロジックとしてうまくいっているようでも、デザインの視点が入らないと人のためになっていない。一見みんなの役に立ちそうなフレームが理屈上できたとしてでも、そこでできあがるものが魅力的でなければ、結果誰のためのもの?ということになると思います。最近、「個性的であるという意味のデザインではなく……」とか、「スタイリングという意味のデザインではなくて……」という言い方をよく耳にするのですが、それとはまったく逆に、むしろスタイリングについての責任を真っ向から引き受けて、それに加えて社会的な思考ができること全体がデザインだと思います。

―個人の活動として何をしてきましたか。

グラフィックデザイナー、アートディレクターは基本的に役者と同様で、オーダーワークが多いので、自分の知見を総動員して全力で依頼に応えます。ただ常に、私がこの仕事をやる意味についてよくよく考えてデザインすることにしています。

最近Gマークや21_21 DESIGN SIGHTのように、同業者を相手にする仕事も多く、なんかイヤな汗もかきます。また最近は、企業や地域の活動にアートやデザインを入れて改革する、デザインコンサルティングのような仕事も多いです。

―研究室の活動として何をしていますか。

最終的なアウトプットのスキルというのは時代とともにどんどん更新されていくものなので、それは社会に出て現場で身につけたほうがいい。すでに社会に存在しているデザインを、大学で撫で回す必要はまったくないと思うんです。ここでは、リサーチの結果やテーマの背景にあるものを、いかに説明的にならずに可視化できるのか、そのトレーニングを徹底的にやったほうがいいと思います。これからはAIではなく人間がやるべきデザインを皆で一緒に手探りして模索し、それを社会で存分に試してほしい。

例えば、2017年の長崎県の五島列島での取り組みでは、院生らが1週間ほどの滞在中に、観光リゾートのデベロッパーとは一味違うクリエイター目線のリサーチを通して「文化価値をどう編み直して観光資源とするか」ということを、「紙袋」という機能あるひとつの形に落とし込むことで検証しました。それは、ありきたりの「南の島」というビジョンではなく、文化的で感度の高い顧客に訴求したほうが効率的だという結論を視覚的に明示したわけです。

五島列島のプロジェクトで制作した紙袋。

五島列島のプロジェクトで制作した紙袋。島の自然に想を得た謎めいたデザインにより、感度の高い客層たちに訴求するのがねらい

また、2016年藝大陳列館にて開催の「Robert Frank: Books and Films, 1947-2016 in Tokyo」では、巨匠ロバート・フランクとゲルハルト・シュタイデルがつくった世界巡回展の10回目の開催地として、東京藝術大学が名乗りを上げ、企画、会場デザインと設営、広報などをすべて学生の自治によって行いました。開催中3万人もの動員が達成できたのですが、助成金集め、展示合わせて行った様々なイべントの企画・運営、ドイツとの交渉やプレゼンテーション、オープニングパーティの仕切りから海外スタッフの宿泊所確保に至るまで、すべて学生たちが率先して手がけてつくり上げたものです。こうして展覧会の当事者として関わることで、そのコンテンツの一部に自らがなるという体験ができました。限られたマンパワーと予算の中で、前例なき思想の壮大な現実化ができたことによって、関わった者だけが知り得るリアライズのメソッドを体験できたと思います。

「Robert Frank: Books and Films, 1947-2016 in Tokyo」の展示風景

「Robert Frank: Books and Films, 1947-2016 in Tokyo」の展示風景

デザインの仕事はたいてい依頼者がいますが、受発注の関係がフィックスしてしまっていて、うっかりするとデザイナーがもっている「世界を幸せにする技術」を発揮できないままになってしまいます。もっとデザイナーやアーティストが経営に関わる必要があると思いますし、それには、私たちクリエイティブの側もこれまでに加えて新しいビジョンの持ち方を知るべきだと思います。

―学生にどんなことを望みますか?

大学院に来るときは明快な目的を持ってきてほしいですね。自分はこういうことをやりたいんだ、研究したいんだっていうこと。それは学んでいく過程で変わっていくものですが、そのときの自分の気持ちの仮決めをしてきてほしい。倍率が10倍ぐらいなので、ただやる気があります、ではなく、目的意識のある人でないと必然的にどうしても取れないんです。

あと、これは私の研究室を希望する方たちに対してですが、デザイナーとして名乗るのであれば、少なくとも考えていることを目に見えるものにするための最低限の造形力を持っているということを前提にしたいと思います。つくれることは当たり前だと思っていてほしいので、仮に必死につくっていてもひょうひょうとしていてください、と言うのです。息をするようにつくれるのが理想だから、手を休めたら無視されてしまいます、この研究室では。

デザインはアタマとテを使う仕事ですが、アタマは後からついてくる。けれどテの問題は先に手に入れておかないと後からは手に入らないと思っています。なので、つくれる人は多少挨拶ができなくても歓迎されますよ。藝大のデザイン科で造形に対して一番うるさい、昔の藝大の雰囲気を残しているのは僕かもしれません。ただそれは今ますます必要とされていることもよく理解しているつもりなのです。

―幸せとは?

社会でも家族でもいいんですが、あるところに自分が噛み合って繋がっているっていう状態が幸せだと思います。また、ものづくりに人生をかけている仲間と出会えるのも幸せなことだと思います。

(取材・構成:小林沙友里)