東京藝術大学 美術学部 デザイン科 Tokyo University of The Arts, Department of DESIGN

東京藝術大学Website日本語English

News

学生の声 #01:小園江ナツキさん (学部1年)

2021-12-25

「学生の声」では、学部デザイン科・大学院デザイン専攻に在籍している学生に、学生生活や制作に関することをインタビューします。今回は、第102回手塚賞準入選を果たした小園江ナツキさん(デザイン科 学部1年 / 2021年4月現在)へのインタビューを掲載いたします。

手塚賞準入選おめでとうございます。小園江さんは今学部1年生で入学したばかりですが、漫画を描き始めたのはいつ頃で、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

今年の4月からです。実は「合格するまでは漫画を描いてはいけない」と考えていたので、本格的に描き始めたのは藝大入学後なんです。

小学生の頃にクラスで毎月雑誌を発行していたのですが、思い返すとその経験が漫画家を志すきっかけになったんだと思います。当時は、自分から進んで設置してもらった雑誌係に就き、夢中で雑誌の編集をしていました。表紙デザイン、自分やクラスメイトの連載漫画の編集を行い、誌面上ではイラストコンクールなども開催していました。コンクールの上位者には景品を進呈していたのですが、自作のカードゲームのカードを、自作のガチャマシンを回してもらってプレゼントするというこだわりようでした。今振り返ってみても精力的だったなと思います。下級生が二次創作をしてくれたのも、非常に嬉しかったです。

そういった楽しい記憶が、高校生の頃には「漫画を描きたい」という強い気持ちになっていました。

4月から描き始めてすぐに受賞されたと聞いて驚きました。それまでは一切漫画を描いてなかったのでしょうか。

一切というわけではなく、例えば高校の頃は連載のプロットを書いていました。もちろん受験生の頃にも絵の練習はしていましたが、それはあくまで受験課題ためのものでした。受験用の技術は、自分にとっては漫画に直結するものではなく、絵のとらえ方や「どう上達するか」を学ぶためのものだと割り切っていました。

手塚賞準入選となった「煩悩僧正」の原稿が表示されています。制作にはiPadとCLIP STUDIO PAINTを使っているそうです。
手塚賞準入選となった「煩悩僧正」の原稿。制作にはiPadとCLIP STUDIO PAINTを使っているそうです。

影響を受けた作品や、お気に入りの作家について教えてください。

イラストレーターのおく先生、ジャンプ連載作家の芥見下々先生と藤本タツキ先生です。おく先生は色彩や世界観、構図がすごく好きで、芥見先生はバトルやキャラクターの描写がお気に入りです。芥見先生は立体のとらえ方もとても気持ち良いですね。藤本先生は心理描写や、セリフに頼らずに伝える技術、女性キャラを可愛く描く技術がすごくて、いつも唸りながら読んでいます。

他にはPinterestで海外の白黒のコンセプトアートを集めたりもしています。その中でも、構図や白黒のバランスが気に入ったものは印刷してスクラップブックにしていますね。

漫画家の夢と並行してデザイン科を志した理由や経緯について教えてください。

漫画家として芽が出なかった場合でも、デザイン科であれば就職にも有利そうですし、何より文字を交えた視線誘導や明度計画、構図の勉強が漫画表現にも繋がると考えました。

大学の課題でも漫画を作品として提出し、ストーリーや漫画としての構成が高く評価されていました。デザイン科の課題で漫画が評価されたことに対して、どのように感じましたか?

漫画作品を提出したのは、「調べる」というテーマで台東・文京・墨田の地域をリサーチし文脈について探る課題です。私は、森鴎外が現代にタイムスリップしてきて、ゆかりのある場所を散策する話を描きました。藤崎圭一郎先生(デザイン科教授)が担当をされている課題だったのですが、内容の評価とは別に、話のまとまりやラストにかけて構成のテンポを上げていく手法など、漫画表現、に関する具体的な評価もしていただけました。

美大や藝大では漫画やイラストが評価されないイメージがあったので、すごく驚きました。

小園江さんが「調べる」課題で描いた作品の抜粋。
小園江さんが「調べる」課題で描いた『タイムスリップ鴎外』(抜粋)。全篇はtwitterでご覧いただけます。

藝大に入って刺激を受けたことや良かったなと思うことがあれば教えてください。

藝大はとにかく立地がよく、上野公園を歩くとアイデアが出やすいです。特に噴水の周りは気持ちが良くて気に入っています。また、最近は漫画表現の中に浮世絵や水墨画などを取り入れることを考えていて、そういった資料を集めるのに附属図書館がとても便利です。浮世絵や襖絵集などに関する蔵書が充実しているのが良いですね。デザイン科のアトリエで使っている椅子が腰に優しいのも嬉しいです。

これからの大学生活で挑戦したいこと、楽しみなことはありますか?

手塚賞では『煩悩僧正』という和風な作品で賞をいただいたのですが、実際に京都・奈良のお寺などを巡って勉強する古美術研修旅行が楽しみですね。また、卒業制作では学外の方にも読んでいただけるような短編集を作りたいと考えています。今は大学卒業と同時に連載を始めるのが一番の目標です!

小園江ナツキさんと、手塚賞準入選の発表が掲載された週刊少年ジャンプ。鳥山明先生からのコメントも。(画像引用元:週刊少年ジャンプ2022年 1号)

デザイン科を受験する人に対して、メッセージをお願いします。

私は受験課題は作家性よりも基礎力が大事だと考えていたので、予備校に通っていた頃は参考作品の良いところ、悪いところを分析して制作に活かしていました。常に「なぜ今この作業をしているのか」の理由を考えて制作してみてください。実際、私は惰性で作業をして、痛い目を見たことが多々あるので…。

また、どんな環境でも「何をするか」が大事だと思います。そういう意味では、デザイン科は本当に幅広い分野について学べますし、自分とは専門性が全く異なるクラスメイトと切磋琢磨することができます。今自分が何に興味を持っていて、将来何をしたいのかについてまだはっきりとしていない人にこそ、デザイン科をオススメしたいです。

最後に、藝大受験をするなら『ブルーピリオド』がおすすめです。是非読んでみてください!