教員インタビュー
Interview : 3rd Studio / Time & Space
第3研究室 / 鈴木太朗准教授
1973年生まれ。東京都出身。2000年東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。05年東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。14年「道後オンセナート」、15年「動きのカガク展」に参加。受賞歴は、01年「第5回文化庁メディア芸術祭」審査委員会推薦作品、04年「第7回文化庁メディア芸術祭」奨励賞、08年「SDA AWARD」第42回SDA大賞 経済産業大臣賞(アトリエオモヤ+日本デザインセンター原デザイン研究所)など多数。アトリエオモヤ代表。2013年より現職。
――デザインとは?
独りよがりなものではなく、第三者がいるものだと思っています。重要なのは、人に興味を持ってもらうこと。おもしろいと思ってもらったり、共感してもらうことですね。そのために一番大事にしなくてはならないのが、自分がおもしろいと思うことは何なのか。それを形にしていくことが世界をおもしろくしていくんじゃないかと思っています。
――個人の活動として何をしてきましたか。
基本的には作家として活動しているんですが、テクノロジーを使い、メディアアーティストと呼ばれるようになったきっかけは、藝大デザイン科の学部の卒業制作でつくった、気泡で模様を描く作品でした。東京大学で流体力学を研究していた荒川忠一教授がそれを見て興味をもって、東大に新しくできる情報学環という組織に来てみないかと誘ってくださって、藝大に籍を置きながらそこの学生と一緒に作品を制作し、テクノロジーを学びました。それから、テクノロジーのほうから新しい表現を展開できるようになったんです。
専門分野は自然の物理現象の時間軸表現で、水や風、光や空気といった、国や年齢を問わず誰でも興味をもって、きれいとかおもしろいとか思えるものを目指しています。例えば作品で水を目にすると、過去の自分の水に関する記憶と結びついて、時間軸のレイヤーが生まれる。それは場と人をつなぐ上で、とても重要なことなんじゃないかと可能性を感じています。最先端のテクノロジーも使いますが、それありきではなく、むしろその手前にある人の感覚的なものに近いところで、美しい、楽しいと思ってもらえるものを探っています。
――研究室の活動として何をしていますか。
研究室にはテクノロジーを使う人もいれば使わない人もいて、そういう人たちが集まって話し合いながらつくっています。工学系でプログラミングをバリバリ勉強するのとは違う、美大生ならではの感受性、拡張性を活かすことで、新しいものが生まれるんじゃないかと考えています。
また、院生はもはや受動的に教えを乞う「学生」ではないので、科や大学にとらわれず、大きいプロジェクトも一緒にどんどんやっていければと思っています。2016年に「TOKYO数寄フェス」に参加するときに、「東京藝術大学美術研究科デザイン専攻 第3研究室」という名前があまりにも長いので、研究室の通称を「空間演出研究所」としました。ブランド名を生かした今後の活動にご期待ください。
「TOKYO数寄フェス」で発表した《ミナモミラー》は、上野の不忍池の淵に550ユニット、計1,100個のパワーLEDライトを設置して光の演出をした作品です。光のある現実の世界と水面に映るもう一つの世界の境界をなくしてひとつにしたいという思いから、光源から開発して、光の研究としてやりました。いずれは、例えばおじいちゃんとおばあちゃんが散歩しながら「今日はミナモミラーがよく伸びてるね」と話題にするような、日々の生活の中に溶け込む環境表現にしていけたらと考えています。
今は、海を本に見立てて海に詩を描き出す《The Book in The Sea》という作品制作に集中しています。2018年8月にマルタ共和国で行われる欧州文化首都のアートイベントにアーティストとして選ばれたことをきっかけに進めているんですが、マルタ島は美しい人気観光地でありながら、長い歴史の中で数々の戦火に見舞われていて海に対する深く重い記憶があるんですよね。そこでマルタの人の詩を気泡で海に描き、現在と過去を行き来する海の記憶として表せたらと。空間演出研究所のメンバー含め、水族館にリサーチに行ったりプールで模擬実験したりと3年にわたる実験を重ね、準備しています。
――学生にどんなことを望みますか?
藝大って、ここに来たら何かやらせてくれるというところではなくて、自分から何かを起こさなければ何も始まらないんですよ。僕は「あなたがやりたいことをここで実現させていこうよ」というスタンスなので、「こんなことができたらおもしろい、時代が変わっていくんじゃないか」みたいな価値観の持ち主に来てほしいなと思っています。空間系のことをある程度やっていて、その先を伸ばしたいんだっていう強い意志がある人にとって、この研究室はおもしろい所なんじゃないかなと思いますね。
――幸せとは?
僕はもともと自分に全然自信がなくて、勉強もできなくて、人前で話すのも苦手でした。けれども藝大に入って自分がやってることを「いいね」って認められたあたりから、自分に自信が持ってるようになったんです。それってやっぱり自分がワクワクしてつくったものに共感してもらえたからで、幸せなことだと思います。
(取材・構成:小林沙友里)