東京藝術大学 美術学部 デザイン科 Tokyo University of The Arts, Department of DESIGN

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鈴木敏夫さん特別授業レポート

2018-08-29

スタジオジブリプロデューサー鈴木敏夫さんの特別授業が行われました。
東京藝術大学美術学部デザイン科4年プレ卒箭内研

鈴木敏夫さんインタビュー

スタジオジブリのプロデューサー、鈴木敏夫さん。日本のアニメーションの歴史は、これまで宮崎駿監督、高畑勲監督らと共に数々のジブリ作品を手がけてきたこの名プロデューサーの名前なしでは語れません。

藝大でアニメーションを学ぶ私達が今、一番会いたかった人・鈴木さんに幾つかの質問をさせて頂く形で進んだ特別授業。

ラジオ番組、『鈴木敏夫のジブリ汗まみれ』の収録も入りました。

鈴木敏夫さんインタビュー

今まで仕事してきた中で一番楽しいと思ったことは?

鈴木:今までの中で?僕あんまりそういうこと、そういう風に考えたことないんだよね。それどういうことかっていうと、いつも今が楽しいっていう ( 笑 )

おかげさまでそういう人生を送れたんで、だからあの時は良くてあの時は嫌だったとか、そういうことはあまり感じないですね。楽しいってことを感じるには、その逆の、楽しくないことも経験してないと、楽しさって大きくならない、そういう側面があると思うんだけれど、ただ、終わったことはあんまり覚えてないですよね。

そんな僕のことをなぜかよく分かってるある編集者がいてね。禅のお坊さん達と対談しないかっていう企画を考えてくれた人がいるんですよ。これ宣伝みたいになっちゃうんだけど、禅てね、一言で言うと、過去を悔やまず未来を憂いない。今ここに生きるっていうのが大体禅なんだけどね。それで、多分そういうことを僕が考えてるだろうってことを分かってる編集者がいてね。それで、こんなことを考える奴がいるんだ、と思ってついその人の話に乗って、毎月お坊さんたちと話す、っていう連載企画をやったんですよね。だから、それがひとつの答えになると思うんだけれど、大体『今』と『ここ』なんですよね。 で、これが本になるんで。それをちょっとここで喋っちゃう。

一同:( 笑 )

──いつ頃ですか?

鈴木:もうすぐですね。7 月 4 日。タイトルは、皆さんなんか難しいタイトル考えていたけれど、僕それちょっとどうなんだろうと思って、それでこういうタイトルにしたんですよ。『禅とジブリ』って。これおかしいでしょ。

──なかなか結びつかない、ですね。

鈴木:ねえ、結構評判良かったですね。やっぱりこう、仏教、禅というと、皆難しい言葉が浮かぶみたいで、その担当の人が色々考えてくれたんだけれど、あんまり深く考えないでこういうのはどう?って言ったらこれに決まっちゃったんですよ。

鈴木敏夫さんインタビュー

発売間近の書籍、『禅とジブリ』を手にして話す鈴木さん。

今まで仕事してきた中で失敗したと思ったことは?

鈴木:多分いっぱいあるけど忘れました。なんか色々あったんでしょうけどね。僕に才能があるとしたら忘れちゃうことです。なんか引きずってたら先に行けないじゃないですか。そう思いますよ。

デジタルに移行してアニメの作り方が変わっていくことについてどう思うか?

鈴木:アナログからデジタルへの移行ってことで、確かにデジタルになって、色々違うことが出てきたけれど、しかし、基本は変わってないんだよね。要するに、何か考えて作品作ろう、そこらへんなんかは、いくらコンピューターでやっても中々手つかないし、じゃあそれを具体的にどうやってやるか、これは、やってきたアナログの方法、それがデジタルに置き換わってるだけで、基本的にはそんなに変わんないなって気が僕はしてますよ。

現にね、今ジブリは作品を二本作っていて、一本は皆さんご存知だと思うんだけど宮崎駿が、もうかれこれ 2 年やってますね。これはね、手書きなんですよ。それと、もう一本。宮崎吾朗が実はコンピューター、CG で作品を作ってるんですよ。だから見ていて面白いですよね。でも基本的に、何か変わったかっていったら、変わってないですよね。

ただ、僕二つ現場があって、二つとも関係してるから両方の現場に顔出すんですよ。でもなぜか若い人の方に行っちゃう傾向があるんだよね。若い人っていうのは、デジタルの方やってるのは若い人が多いから。平均年齢 30 いってるかどうかだからね。そこ行った方が何か気が楽だよね。それで、手書きの方はね、ベテランが多いんですよ。だからちょっと嫌ですよね。( 笑 )

──若い方と喋った方が、気が楽というか、そういうのが…

鈴木:あるんですよ。どうしてか分かんないけれども、なんていうんだろう話す時に、溜めがないっていうのか、若い人って率直なんですよね。おじさんたちは、どうも違うよね。口が重いっていうか。なんかこっちも重くなってきて疲れちゃうじゃない。だから、若い人は好きです僕は。

くだらない話しちゃっていいですか?僕は名古屋の出身で、自分の出た高校、そこのある人に頼まれて、卒業生が皆集まるからそこで何か話せって言われたんです。僕本当は嫌だったんだよね。あんまり好きじゃないんですよね、同級会とかああいうのって、なぜかね。それで、行ってみたんですよね。行ってみたら、男子校だったせいもあるんだけど、おじいさんばかりでね、もうほんとうんざりしてたんですよ。

でも、しょうがないからね。そしたら、実際の場所には若い人もいっぱい来てたんです。ちょっと安心してね、それで喋り終わって、そのあと、そのおじいさんたちと懇談会みたいなのがあるって聞いて、嫌だなあと思って。ほんとに嫌だったからね。実はそのおじいさんたちがね、口々に皆さん僕のことをね、「先輩」って言ったんですよ ( 笑 ) これショックでね。ええー⁉︎ってなって。僕あんまり自分のことよく分かってないのかと思って。はい、そんなことがありました。

こんなんでいいんですかねー⁉︎ ( 笑 )

一同:( 笑 )

自分が作りたいものを作り続けていく為に何かしていることは?

鈴木:自分が作りたいものってなんだろう。まあ僕はね、プロデューサーっていう立場だから。プロデューサーでも自分がやりたい企画があって、それである監督を見つけて、一緒にやっていく、そういうやり方もあるんでしょうけれど、僕の場合は、宮崎駿っていう人と、この間亡くなっちゃったけれど高畑勲と一緒にやるっていうのが前提でしょ。そうすると、企画は、宮崎駿の場合はね、僕は何にも言わない内から、あれやりたい、これやりたい、って勝手に言ってくれたんですよね。

それでまあ、楽だったんですよね。困ったのは、高畑さんの方でね。この間 2 人で、2 人っていうのは僕と宮崎駿で、高畑さん亡くなった後、延々話したんですけれど、僕は初めて彼と一緒にやったのは火垂るの墓、それから、おもひでぽろぽろか。それと、平成狸合戦ぽんぽこっていうのと、それから、山田くん。そして、かぐや姫かな。

これね、高畑さんて一本も、自分でやりたいって言わなかった人なんですよ。それで、しょうがなくてね、僕らの方で考えて、企画を押し付けた。じゃあその企画ってのは、やりたくてやったのかな、って言われるとちょっと悩みますね。まあその時その時の事情はあるんですけれどね。

だけどまあ、これは宮崎ともよくそういう話をしてたんだけれどね、ほんとにやりたいものって言ったら、宮崎っていう人はこう言うんですよ、ほんとにやりたいものって大概くだらないもんだよね、って。そしたら、そんなことやっちゃったらだめじゃんって。

それで、これは独特な言い方かもしれないけど、やっぱりね、映画っていうのは、多くの人に見てもらう。作る方だって人数、いっぱいでやるわけですよ。そしたら、ある種私的、プライベートな、パーソナルなものじゃなくて、公的なものでなきゃいけない。そういうことで言うと、今皆さんが、どういうもの見たがっているんだろうって、それを先に考えて作品を作る、ということはやってきましたね。だって、勝手に作ってさ、誰も見てくれなかったらしょうがないじゃん。って考える訳ですよね。分かりました?言ってる意味。

だからね、宮崎駿っていう人も何本か作ったでしょ。だけどおそらく、これが作りたい!って作ったものはほとんどないんじゃないかな。だって彼がもし、本当に作りたいってやったらね、ほんとにくだらないもの作りますよ。もう、戦闘機が飛ぶやつとかね。そればっかり作る。

──作りたいものと公的なもののバランスってどうやってとっていこうとか意識した事はありますか?

鈴木:もうだからとにかく、作りたいと思ったものは作らないって決めてあるんですよ。だからそういうことでいうとね、唯一の例外が、宮さんの場合『紅の豚』。あれはね、作りたくて作った唯一の作品なんですよ。

というのか、最初はあれって、正確なことはちょっと忘れちゃったけれど、短編で作りたかったんですよね。それで、短編だったらね、まあ当時ナウシカだとかラピュタとかね、トトロとか色々やってきて本人がね、一本くらいさ、少し好きなやつやらせてよ、とかなんか言ってね。それで、彼がその代わり短編って言い出したんですよ。それで、15 分だったらね、いいじゃん、とかなんか言うから。

それで僕、色々考えてね、15 分かあと思って。そしたら飛行機の中で上映するとか、どっかで見せたい訳だから、いいんじゃないかなと思って。それでやってる内になんか伸びちゃったんですよね。それで伸びたってのはね、彼が好きなものをやりたいって考えた 15 分の内容、僕ははっきり言うとですね、ほんとにつまんなかったんですよ。

それでついね、余計なこと言ったんですよ。あの、映画の冒頭の 15 分間。覚えてる人は思い出していただきたいんですけれど、なんかね、子供たちが何か、悪いのに攫われて、それを助けて終わりっていう、これで終わりだったんですよ。そうするとね、面白くないでしょ。

これ、僕ねしょうがなくてね、この豚って、何で豚になったんですかって宮さんに言ったら、宮さん怒っちゃってね。そういうことをいちいち説明してるから日本映画は駄目なんだよ、とか言い出したんだよ。本当に怒ったんですよ。それで、怒りつつね、次の日になると「ちょっと考えたから聞いてくれる?」って ( 笑 )

それやってたら、15 分が 30 分になってね。それで、中途半端な長さになっちゃったでしょ。それで僕ね、もう一回くらいこいつが、何で豚になったかをやるとどうですかね、って言ったら、「へっ二回もやるの?」とかなんか言い出してね。それで、やってたらね、今度はね60分くらいになっちゃったのかな。それで、60 分くらいになったんで、宮さんこれね、もうこの際だからしょうがないから長編映画として作りましょうよって言って、それで気がついたら 80 分になっちゃったんですよ。

そうやって作る時もあるんですよね。でもその時に、後で考えるとですけど、この人は何で豚になったんだろうっていうのは多分、やっぱりある種の公的なもの、一般の人が見てちゃんと分かるものにしよう、っていうのはどっかにあったんでしょうね、そうだと思います。

──普段から結構「何で豚になったの?」とか聞かれたりするんですか?

鈴木:まあ、あの映画の場合はね大変でした。何でかっていったら、もう映画を作ってその後、日本全国周ったんですけど、そうすると色んな記者の人が質問してくれるじゃない。そうするとね、もう記者が会うごとに、なぜ豚になったんですか?って聞くんだよね。そしたら、もう宮崎が怒っちゃってね。もうほんとに。何回この質問受けなきゃいけないんだって。そうなんですよ。あれ質問に答えてないかな? ( 笑 )

──他の作品でも、結構そういう風に何で?って質問されたことで物語が付け加わっていく場合ってあるんですか?

鈴木:やっぱり、プロデューサーの役割ってさ、本で言えば編集者と同じで、最初の読者。だから最初の観客だよね。だから僕は最初の 15 分間見てね、これは言わなかったんだけれど、面白いと思わなかったんですよ。それで、つい出ちゃったんだよね。そういうこともあるんだよね、長い人生には。

僕 40 年付き合ってるんですよ彼と。あの手この手で言いますよね。だから、少しできるとね、未だにそうなんだけれど、今作ってるやつなんかもね、20 分くらいできると、僕に見せてくれるんですよ。それで、どう?って聞いてくるから、まあこうだよね、とかなんか言って。そういうことやってますよ。

集団制作のアニメーションの世界で一人一人の個性はどう尊重していくのか?

鈴木:ジブリの場合はね、一人一人の個性を尊重しないんです。

尊重なんかしたら長編アニメーションなんてできないでしょ。だからあなたの個性は、とりあえず横に置いといて下さいですよ。だって、宮崎アニメって言い方よくするからそう言っちゃいますけど、宮崎駿が考えたものを皆で寄ってたかって作る。その時にね、いちいち個性発揮されたら困っちゃう訳ですよ。でしょ?

だから皆やっぱりね、絵描きって言うのか、現場で絵を描く人達?どっかですごいもの持ってるんだよねー。僕はずっと悩んできたのそれですよね。

非常に卑近な話をするとですね、宮さんなんてトトロってキャラクター有名じゃないですか。 そうすると、機会があるごとに色んな人から色紙を頼まれるんですよね。その数が半端じゃないんですよ ( 笑 ) ね、どうしたらいいんですかこれ。

ちょっと考えると難しいでしょ、色紙にトトロ描いて下さいってね。僕はふっと思ったんですよ、そうだこの会社当たり前だけど皆絵描くんだから皆に描かせようと思って。それでね、ちょっと呼んできて3~4人に描かせてみたの。誰も描けないんだよね。

一同 ええ~。

鈴木:本当に描けないんですよ。僕びっくりして何で描けないんだって言って。それでついね、まあ~それが僕が失敗したとこなんですけど、こうやって描くんだよって僕が描いたんですよ(笑)そしたらね、僕の方がよっぽど上手いですよそういうの。これって何かって言ったら…分かりました?

僕、自分の個性発揮しようなんて考えてないの。描こうと思ったのトトロだけでしょ。ところがそのジブリの若い人達ってどっかで自分の個性を持ってて持て余してるから、そのトトロ描くときですらね、変なトトロ描いちゃうんですよね。その結果なにが起きたかっていうとこれもうホント冗談ですけれど、その後に色々来る色紙のトトロは皆僕が描くことになるんですよ。もうすごいですよ。

もうねぇ、はっきりこの公的な場で言いますよ。宮崎駿が描いたトトロの絵はほとんどありません。ほとんど僕です ( 笑 )

鈴木敏夫さんインタビュー

一同 ( 笑 )

鈴木:…こんなこと言っていいんだろうか ( 笑 )

一つだけね、こういうこともあったんですよ。宮崎駿が僕の所に来て、…変な人なんですよ、二枚のトトロの絵持って来たんです。それで僕の所へ来て「どっちが俺だっけ?」って。ホントなんですこれ ( 笑 )

そしてからね、ジブリのベテランアニメーターのある人が「鈴木さん、何言ってんのよ。私は宮さんのそばでずっとやって来てるから、私の目は誤魔化せないよ」ってぱっと取ったのが僕の絵だったんですよ。…僕は何を自慢してるんですかね ( 笑 )

でもそういうことって起こるんですよね。だってさ、僕がやろうとしたことを参考までに言いますとね、宮さんだったらどうやって描くんだろうって、考えたのそれだけなの。分かります?僕ね、必要に迫られてね、描かなきゃいけないことあるんですよキャラクターとか。大概、頭の中に浮かぶのは宮さんの絵ですよ。それを模写してるんですよね。そうするとある程度描けるんですよ。だから冗談みたいなこと色々起こるんですよね。

僕がね、ちょっと本当に困った猫の絵があって。そしたらそれ宮さんが描いた奴がどっか残ってたんですよね。それをなんとなく模写するんですよ。そしたら宮崎駿がそれを見て「鈴木さんこれいいよ」って言い出してね、世の中ってのは何なんだろうって ( 笑 )

だけど僕が言いたいことの一つね、僕はちょっと必要があって、必要ってのかなそういうことになっちゃったんだけど、筆で文字を書くってことを気が付いたらいっぱいやる訳ですよ。だけれど中国では、それって大事なことなんですよね。要するに字を書けるようになるのに。臨書っていうのかな。書に臨むと書いて。要するに誰かすごい上手だった人の字の真似をするっていうのがね、すごい大事なことで。それは、ほんとにそのまま書かなきゃいけないんだよね。

だから僕なんかもね、人の字を真似たりとか、字を書く時もそうですよ。ある時にもある人にね、ちょっと字を書いてくれって言われて、どうしようかなって。何でもいいですって言われてね、これ一番困るんですけどね。その時なんかも、頭の中で考えるんです。そうするとあの所に飾ってある、あの龍って字を書いてみようと思って。そうすると頭の中にあるんですよ、それが。それを頭の中で模写するんです。そうすると書けるんですよ。何にもなしじゃ書けないですよね。

鈴木敏夫さんインタビュー

鈴木さんが書いた文字があしらわれたグッズ。鈴木さんの書は映画のコピーなどにも用いられ、今やジブリ作品になくてはならないものとなっている。

宮崎駿もそうですよ。本当二人で色んな付き合いしてきたけれど、あの人もね、ほとんどの絵がどっかで見たもの。それを頭の中に置いといてね。それを引っ張り出してきて、それを描くんですよね。

──例えばどういったものがありますか?

鈴木:例えばもののけ姫で、エボシ御前っているじゃないですか。彼と二人である時小樽っていうとこ行ったの。そしたら案内してくれる人がいて、鰊御殿(にしんごてん)っていうのがあったんですよ。それで鰊御殿を見て、良かったんですよ。そしたら宮さんもじっと見てるでしょ。それでまあ僕も見て「いいですね」とか言って。で、もののけの時にそのエボシ御前のお家を描く時、ひょろひょろっと描くんですよ。必ずそういう人なんだけれど「鈴木さん覚えてる?」って僕に見せてくれるんですよ。そうすると「あ!鰊御殿」て言うでしょ。でも「一つだけ違うんだよ」って言うから「何ですか」って言ったら、高さを三倍にしてあるんですよね。そういう例は枚挙に暇がない。いっぱいありますよ。だからどっかで見たものなんですよね。

──その元になるものは、やっぱり旅先とかそういう所で見たものなんですか?

鈴木:う~ん、何かの拍子に見たものだよねぇ。映画で見たもの、実際の目で見たもの、色々あるけれど。宮さんの場合は実際に見たものを頭の中へインプットしておいて、描く時にそれを引っ張り出すというのが多い人ですね。だって何にもなくちゃ描けないじゃないかって、ねぇ。

そういう中で言うとトトロに出てきたネコバスってあるでしょ。僕はあれ見た時にこれが動くとどうなるんだろうって、トトロを作りたくなったんですよ。それで宮さんにトトロやりましょうよって言って、色々あってやることになったけどまあ…びっくりしたんですよ。何でかって言うと宮崎さんが「絵はこうやって描いてるけどさ…」って言うから「何ですか?」って言うと、「お話考えてないんだよ」って言い出してね ( 笑 )

奇妙奇天烈なものを作るのが得意な人でしょ。その中でもあれは秀逸だと思ったの。それでね、トトロ作り始めたらね、ここが大事なとこなんですけどトトロってね、もう古い古い話なんだけれど、実は映画として二本立てで、トトロと高畑勲監督の火垂るの墓だったんですよ。それでね僕はネコバスはいつ出てくるのかなぁって待ってるでしょ。宮さんネコバスっていつ作
るんですかって聞いたの。そしたらね、( 宮崎さんが )「ダメだよ鈴木さん」って。どうしたんですかって聞いたらね、パクさん、パクさんって高畑さんのことなんだけどね、文芸映画作ってるんですよって。あ、そうですねって言ったら「俺だって文芸で行くよ」って。

一同 ( 笑 )

鈴木:負けん気が強いんだよね。「そんなね、猫が空を飛ぶ?そんな馬鹿なことやってらんないよ」と。これ実話なんだよ ( 笑 )

それで、コマに乗ってトトロが飛ぶっていうのもあるでしょ?で、あれもヤダって言い出した訳よ。これねえ、大変だったんですよ説得するの。ネコバス、それから空を飛ぶ時にはあのコマでやりましょうよと。これね、もうしょうがないから最大限の賛辞を送りましたよ。こんなこと考える奴世の中にいないからって。そしたら分かったよそれじゃあって言って渋々入れてくれたんですけどね、大変でした。

…何の話だっけ? ( 笑 ) そういうことってあるんですよね、宮さんってほんとあの人の場合ほーんとねえ身近な所からね、色んなものをこうやって引っ張り出すの得意ですね。

今作ってる映画でもね。すごい大事なスタッフが自分がやってる代にいて、保田さんっていう女性なんですがね。色を決めてくれた人なんですけど、彼女が一昨年かな亡くなっちゃったんですよね。それで彼は今新しい映画の絵コンテっての描いてて、それを見てたら「あ」と思ったんですよ。ある女性が出てくるの。それが保田さんそっくり。ちゃんとある特徴を捉えてその人が登場してるんですよね。それでまあ、こんなこと明かすのもあれだけど主人公が宮崎なんですよ。その側にね、悪い奴が一人いるんですよ。サギ男って言うんですけどね。それで二人が、その主人公とサギ男が喧嘩してるっていうシーンがあってその保田さんっていう女性がね、ひびこかな?何か言うんですけれど、まあまあ仲良くしなよっていいシーンだったんですよ。これ見ててああいいなって思ったね。

でもちょっと気になることがあったんですよね。でまあそのシーンが出来た時に宮さんが「どう思う?」って言うからね、いやすごい面白かったですよって言ったんだけれど、気になってる所がね「あれー…サギ男って、誰かモデルいるんですか?」って。そしたらね、…宮崎って面白い人なんですよ。「いないよ、鈴木さんじゃないよ」って言ったんですよ ( 笑 )

一同 ( 笑 )

鈴木:いやほんとに、面白い人なんです。大体そういうとき震えるんですよねあの人。

だからほんと身近なとこから着想を得てやりますね。よくまあ思いつくなって。彼の最大の特徴ってああいう変なキャラクターを生み出すっていうのか。ついこの間しみじみと(宮崎さんが)「鈴木さんさあ」って言うから何ですかって言ったら「ネコバスってやっぱすごいよね」って自分から言いだしてね。何馬鹿なことこの人言ってんだろうって思って、それで返す刀で「やっぱりトトロはダメだよ」とか言ってね ( 笑 )

なに考えてるんだろなあれ。いきさつは覚えてないよね、うん。あれやめるって言ったことは絶対覚えてないよあの人は。幸せですよねえ~。これでも分かるでしょ?やっぱり今ここに生きてる人なんですよ。

アニメ業界の未来に向けて若い人を育成する事業や取り組みは行っているか?

鈴木:まあ僕らはやっぱり映画を作ることなんですけれども、それに尽きますよね。アニメーターもねぇ…。やっぱりものをよく見る人見てる人が上手ですよね、基本的には。だから先輩に教えて貰ったって、なかなか上手くいかないですよねぇ…。

例えば宮崎駿の例でいうとね、彼なんか男4人兄弟だったの。男4人でしょ、で彼が2番目。実は1番下の弟が絵がすごい上手かったらしいんですよ。それでなんとか彼に負けたくないって、まあその頃は自分が将来何になるのか分かってないんですよ。でも彼より上手くなりたいって、一番末の弟より、っていうんで自ら絵の学校へ通い始めるんですよ。塾みたいな所へですけど、それでねえ学校行くだけじゃなかったんですよ。塾へ行ってその帰り、彼が何をやったかっていうとね、その先生の所からすると井の頭公園っていうのが近くて、そこで毎日うん時間、スケッチをしたらしいんですよ。

4年間。彼のベースってそれですよね。それでね、色んなこと発見したって言ってましたよ。例えば歩く時だってね、要するに老人の歩き方、中年の歩き方、それから青年、それから子供、歩き方が全部違うって。そして男女で違うって。

その使い分けをそこで彼はマスターしてるんですよね。それ高校生かなんかでですよ。そういうのってなかなか人に教えてもらえるもんじゃなくて、自分で見てそれをどうやって整理してそれを描くかだから。だから結局は、一人の作家ってそういうことによって生まれるのかなって気が僕はしますけどねえ。さっきからトトロの話ばっかしてますけどね、彼はやっぱり動かしてなんぼの人。

だからどういうことかっていうと、例えばトトロってキャラクターいるでしょ。トトロのお腹の上でメイちゃんが跳ねるじゃないですか。あれ手で線で描いただけでしょ?何でへっこむんですかね。これ描けるアニメーターほとんどいないんですよ。だから実はそういうシーンて全部彼が描いてるんですよ、これ才能ですよね。

でもその才能の裏打ちにはさっき言ったようなやっぱり努力があったっていうことかなって気がしてるんですけどね。一枚絵じゃなくてやっぱり彼の場合、動かすんですよ。それを伝承するって言ったってなかなか難しいっていう気はしてます。意外に努力家なんですよ。電車に乗っても見てるしね。誰がどうね、それは違うでしょって言ってる時に何秒で喋るかとか計算してるんですよねあの人 ( 笑 )

ほんとそういうとこは生真面目。だから全部、観察に根っこがあるって。彼、若い時はともかくいわゆる映像とか見ない人なんですよ。映画も、テレビも。で、その時に何でかって言った時にね、やっぱり自分の目で生で見たもの、それから後は古い映画で自分の記憶。あれは見てても面白いですね。ほとんどが見たものですね。

僕バカのひとつ覚えで言ってるんですけども、耳をすませばって作品で最後にクレジットタイトルってあるでしょ。それをよーく見るとね、丘があって、その所でロールが動くんだけれどその上にちょっとした隙間があるんですよ。そこを朝から夜まで色んな人が歩いていく、走っていく、駆けていくって延々続くんですよその間。こーれはね、いいシーンなんですよね。つい皆見逃すんだけれど、これ実は言うとジブリで一番上手いアニメーターが描いたんですよ。アニメーション勉強するんだったらあれが一番いいですね、もし興味がある人がいたら。

ほとんどシルエットに近いのに、そのシルエット見てるだけでこの人が男性か女性かそして年齢がいくつか全て分かります。これよっぽど見てないとあんなもん描けないから。

鈴木敏夫さんインタビュー

自分がクリエイターになろうとは思わなかったのか?

鈴木:だって、宮崎駿、上手じゃない。やだよねそんなの目の前にいたら。それが大きいですよ。僕が字を書き始めたのはね、僕ね、人と喋るときにクセがあるんですよ、紙を置いといていたずら描き。そしたら宮崎もそうだったんですよ。会った瞬間から彼がすぐ喋りながら絵描いてる。上手でしょ。勝てないと思った。それでしょうがないから字にしたんですよ ( 笑 )

恐ろしいことに人と会う時に何人も会うでしょ、そうすると必ず紙置いといてメモするんですよ。やってる内にある日、思いついて筆にしてみたんですよね。どのくらい書けるのかなあって。

魅力を感じるクリエイター達が持つ共通点は何か?

鈴木:それも本当のこと言いますね。本当のこと言うと、宮崎駿って人とカリオストロの時に出会った。彼は確かに才能あったかもしれないけれど、むしろ自分と相性がいいかどうかだった。そっちでしたね。だから、そんなその先に彼が映画を作って、世間の色んな評価を得る、それどころかアカデミー賞を取る、そんなことは全く想像してなかったんです。ただ喋ってて気が楽だったし、楽しかったから、この人と仕事してくのいいなって思っただけです。特段才能は感じなかったっていうか ( 笑 )

いや本当に。だって分かんないもん!この間もね、高畑勲って人が亡くなっちゃったんですけど、さっき言ったように自分から企画を言わなかったんです。そしたら宮崎が面白いこと言ったんです。多分鈴木さんがプロデューサーでなかったら高畑さん作品 1 本も作ってないよ、って言われて。ああそうかあと思って。世の中ってそういうことがあるんですよね。作りたくないって人がいると作らせるの面白いですよね。あの人は才能あったけどな。でも分かんないですよね。色んな人とやりたいとも思わないし…。幸せでしたけどね ( 笑 )

宮崎駿さん、高畑勲さん以外で印象に残っているクリエイターは?

鈴木:それはいますけどね。色々。業界にいるとね、例えばエヴァの庵野秀明って、気がついたらものすごい長い付き合いなんです。でも彼の場合もね、僕最初から変な奴だなと思ってたんですけど、彼が作り出しても僕は見向きもしなかったんです。興味なかったし。でも世間で評判になる。あいつはうるさいんです。僕にあれやれこれやれって言ってくるんです。それで仕方なく巻き込まれて一応やってるんですけど。だって宮崎高畑二人でいいと思ったし。

押井守ってのがいるでしょ。あれはどうしようもないですよね。友達だからそう言っちゃうの。あと分かんないなあ…。皆ひとつくらい持ってますよ。

ついでに言うとこの歳になると分かるんだけれど、あっけらかんとした人がやっぱりすごいですね、というのは今自分が作ろうとしてるもの、誰にでも平気で喋っちゃう人は大体すごいですね。自分が作ってるものを隠す奴いるでしょ?試験の時に答案隠す奴、そういうのは才能ないですね。それを見せてくれる奴がやっぱすごい。

宮さんて人も本当にそういう人だね。一緒にやってきて常にそうでした。こんなことやったら恥ずかしいでしょうに、ってこと平気でやる人でした。そこに才能見ましたね。だってスタッフ集めて、皆の前でも作品説明会ってよくやるんですけど、ハウルの時にね、今回僕は初めてラブストーリーを作りますと高々に宣言したんです。皆もわーわーわーって言うでしょ?それで皆期待するじゃないですか。そしたら突然黙っちゃったんです。皆ざわざわしてたのが静かになっちゃうでしょ?そしたらおもむろに、「ラブストーリーというのは、鈴木さんどうやって作るんだっけ」って言い出したんですよ( 笑 ) これは皆を笑わせようとして言っている訳ではないんです。真剣なんです。これがすごい。あの人は、そういう時才能感じますね。普通言えないですもん。

これもよく話す話なんだけども、トトロの最初の案を見て僕びっくりしたんですよ。最初からトトロが出てきて、部屋に入り込んでみんなでちゃぶ台でご飯食べてるってシーンがあって。それで ( 宮崎さんが )「鈴木さん、どうかな?」って聞いてくるじゃないですか。そりゃこちらもびっくりしますよ。それでこういうのは映画の真ん中あたりで出るんじゃないですか?って。そしたら宮崎という人は「何で?」って聞くんです。

これすごいと思いません?何本も作ってきてるんですよ?実を言うと、僕と彼の会話を全スタッフが聞いてるんですよ。僕は感じてるんですよ皆の視線を。こんなこと言っていいのかなと思いつつ、E.T. もそうだったでしょ?って言う訳ですよ。そうすると宮さんが、珍しく見てたんです。「あそっか、真ん中だ」って。そしたら、( 宮崎さんが )「その間どうすんの?」って言う訳です。だから普通はチラ見せじゃないですか?足だけとか手だけ見せるとかって。そしたら「そうかそうやって作ればいいのか!」って、僕が言いたいのは、話の内容もさることながらそれを全スタッフが聞いてる中で平気でやる宮さん、これできないですよなかなか。僕あれ才能だと思う。実を言うと高畑勲もそうです。この二人に共通してるのはこれ。ぼく編集者の時もあったんだけれども、スタッフがいる前でかっこつける人は大概ダメですよね。自分をさらけ出す人ってすごい。だって真剣に考えてんだもん。

──押井守さんとは最近会ってますか?

鈴木:会いましたよ。彼の実写映画に出たんですよ。タイトル忘れちゃったな。実写で多分制作費が安いんですよ。そういう時はいつも僕が呼ばれるんです。今回のやつはホラー映画だって言ってたな。シナリオ渡されたんですけど読んでないんです。自分が出る所だけ見たんです。そしたらすんごい長いセリフで。やんなっちゃってね。でも今回練習したんですよ。でも本番になったら全部忘れちゃって。やりましたよ。

でも押井さん、ガルム戦記とパトレイバーって二つ作ったじゃないですか。あれがあんま上手くいかなかったでしょ。それで元気なくしちゃったんです。僕はだからもう引退したらどうかと、誰も押井さんの作品見たがってないんだからって、本人に言ったんだけどしぶといねえ。どっかから声かかって実写今撮るのと、アニメーションをやるって言うんで準備入ってる。やめてほしいですよ。あんま面白くないんですもん ( 笑 )

でも歳が近いせいもあって会った時から何となく気があうんですよね。だから悪口をお互い応酬して。僕と彼が喋ると面白いらしいですよね。このラジオでもよくやってるんですけどね。でも元気にやってますよ。でも或る日とつぜん逝っちゃうんじゃないかな。好きなんですか?

──好きですね。

鈴木:じゃあちょっと失礼なこと言いましたね。でも彼もちょっとは才能ありますよ。本当はね、押井さんって娯楽映画いっぱい見てきた人なんですよ。ところが宮崎駿がいたでしょ。そうすると彼に立ち向かうには別の手段で作ろうと思ったんでしょうね。それであんな難しい映画をいっぱい作るんですよ。だって同じ土俵で勝負したら負けちゃうもん。だから生まれた時代が不幸だったんでしょうね。

押井守、やっぱ好きですか。

──好きですね。ラジオとかで喋ってるところが、人として面白い。

鈴木:一つ言うとね。彼は嘘をつかない。これはね、ちょっとびっくりする。ほとんどの監督は嘘つくんだけど彼はつかないね。あれは珍しい。

鈴木敏夫さんインタビュー

映画をプロデュースする際、興行的な成功以外で重要視していることは?

鈴木:やっぱ作ってる間楽しいことがいいですよね。そっちの方が大事ですよね。興行の事は後に考えるんですよ。だから作品作る時も、こういうの作ったらお客さん来てくれるとか考えたことがないです。楽しいことやってるから、( お客さんに )悪いから興行もやろうって考えるんです。それが真実ですよね。と、僕は思ってるんですけどね。変なこと考えますからね。

クセのある人と上手く付き合って仕事をするコツは?

鈴木:だいたい優秀な人って変わりモンが多いでしょ?そういう人にまともに言ったって上手くいかないから、自分の中の変わり者の部分を引っ張り出してくるんですよ。それで、そこの所で話するんですよ。そうするとコミュニケーションが取れるから。変な奴いっぱいいるんですよ。

さっき僕言ったじゃないですか。ジブリで一番上手いアニメーターってね、大塚伸治っていうんですけど、この期に及んですごいんですよね。随分年とったのに世界に出したって何本かの指に入る一人。そのくせね、変なこといっぱい言う人なんですよ。例えば、となりの山田くんってのをやってもらったんですよ。となりの山田くんって朝日新聞の四コマ漫画なんですよね。で僕がある時大塚さんに手伝ってって言った時に、「いやどういうものか分からないんで」とか言いながら ( 拒否して )、実際に ( となりの山田くんを ) 本格的にやるようになったから説得しなきゃいけなかったんです。田辺って作画監督と二人で説得しようと思ったんですけどね、難しいって言うんですよね。どうして?って聞いたら「このキャラクター、どうやって動かすか僕には分からない。だから自分にはまだまだ修行が必要」って言ってね。( 大塚さんが ) 風呂敷持ってたんですよね。何かなって思ったら風呂敷開けたんですよね。中は長方形の何かなんです。何かなと思ったら朝日新聞の四コマ漫画。僕が行った日から朝日新聞をとって溜めてたらしいんですよね。こんな束、僕にはできないんですよって。こういう時どうします?こういう人と付き合うとき。

──…どうしたらいいか分かんなくなっちゃいそうです。

鈴木:普通にやればいいんです。僕なんかその時に、くだらないこと聞くんですよ。( 新聞の ) ここを切り取って、そこだけでしょ、それ以外は読んでたんですか?って。そうするとね、へっへっへって笑ってたりするんですよ。面白い男ですよこれ。

本当に上手いんですよ。上手いけれど、まあ普通の人から見ると変な人ですよね。だからその変な所を共有するといいんですよね。今回やっててもらっててもね、群を抜いて上手い。でも自分じゃ全然ダメだって。今年の正月なんかその人が僕に年賀状くれたんですよね。珍しいんですよ。突然送ってきたんですよ。文章いっぱい書いてあるんですよ。浅草に引っ越して、そこがどれだけいいかびっしり書いてあるんですよ。変わってますよね…。

山田くんてね、三頭身なんですよ。アニメーションで人を動かすとき、三頭身って動かしにくいんですよ。もし興味があったらそのシーン見てもらうと面白いけど、これは大塚さんではなく他の人がやったんだけれどお父さんがね、家帰ってきて酔っ払ってるんですよ。それで「何か食うものないか」って。まつ子さんに言ってね。そしたらまつ子さんがね、「何もないけれどバナナだったらある」とかなんとか言ってね、そのバナナをちゃぶ台で酔っ払って頬杖ついてるお父さんに持ってくるシーンがあるんですよ。これぜひ見てほしいですね。何でかっていうとちゃぶ台でしょ?三頭身の人が座らなきゃいけないんですよ。それでバナナを渡すの。

話としてはね「バナナとはなんだ!」って言って怒るっていうシーンなんだけれど僕もこのシーン見た時は驚いたんですよ。目にも留まらぬ素早さでまつ子さんが来てちゃんと座ってバナナを渡す。一瞬だからね、えっと思うんですけど気になって「あのシーンどうやってやったの?」って。ビデオにして解読してみたんですよ。三頭身でしょ?短いでしょ?普通座るって言ったら足を曲げなきゃいけない訳でしょ。三頭身ってどうやって曲げるのか。その秘密を知りたくなったの。

それで、見たら分かったんですよ。座る直前一瞬背が高くなっている。そして足を伸ばしてる。これで足を曲げる。それで座り込む。それを目にも留まらぬ早業で、しかも背を伸ばしたことが分からないように描いてある。天才ですよね。これ描いた奴は。アニメーションってそういう所が面白いんですよ。どうやってやったんだろうっていうね。だから僕宮崎駿っていう人にやっぱり感心したのね。その映像を使って僕は予告編を作るんですよ。そしたら宮崎が珍しく予告編見た、見た瞬間ですよ。「これ誰やったんだ?」って。それで、「その人と一緒にやる」って。見逃さないんですよ。僕も感心しました、宮崎駿に。まだ衰えてないなあと思ってね(笑)だからどこを見るかですよね。でも大体ね、変な人がいいんですよ。

さっき質問にあったけれど「色んな人見てきて才能 ( があると感じた人は? )」って話。答えはね、大体の人はいいもの作りますね。でね、「この人いい人だな」って思うと心配なんですよ。経験上分かるんですよ。ちょっと変な人だとね本当に安心してね、もうお任せしちゃう。でも本当にいい人っているじゃないですか。そういう人は不安でね。

──仕事をするときに相性とかを気にしているのかなって思ったんですけどそれは友達とは違う感覚で見てるんですか?

鈴木:語りかける訳でしょ?それに乗ってくれるかどうかとかね。無視されるときだってあるし。無視された時は無視された時で「何で無視するんですか」って聞いてこれでまた乗ってくる時もあるしね。だからそういうものですよね。

僕なんかそれこそ相性で言ったら例えば宮崎駿と初めて会った日、ひどいこと言いましたよね。雑誌の編集者だったんだけれど「あなたが作っているような雑誌にコメント出したくない、僕が汚れるから」とか。本当ひどかったですよね。それで頭にきたことがきっかけです。このヤローと思いますよね。だから何が幸いするかってその人の気持ち次第ですよね。そう思いますよ。でもね百パーセント色んな人と等分に上手くやるっていうのは難しいですよね。僕はそう思ってます。

手書きアニメーションの技術や表現手法は成熟しきってしまったのか?

鈴木:難しい問題だなあ…。お芝居っていうことで言うと二つあったと思うんですよ。二つあったってどういうことかっていうと結果としては CG の方でもそうなるけど『漫画っぽくやるか』それとも『リアルにやるか』。そういうことでいうと漫画っぽくやるので上手だったのが宮崎駿ですよ。でもリアルっていうことでいうと近藤喜文っていうのが上手かったですよね。僕らの世界で『縦の構図』っていうんですけど手前から奥へ、奥から手前とかそういう動き。彼がやったやつでいうと『耳をすませば』の冒頭。団地で、狭い所でお父さんお母さん自分がいてご飯食べ終わったあと立ち上がって自分の座っていた腰掛けを押すっていうシーンがあるんですけどむちゃくちゃ上手いんですよね。ゾゾっとするんですよ。どうするとそういう人が誕生するのか。それもありますよね。だから僕は変な所ばっかり見ているんですよ実は。

例えば『風立ちぬ』で菜穂子と妹が喋ってる所かな?そこへ二郎が帰って来るんですよ。ドアを開けて中に入ってきて「ああ、いたね」ってドアを閉めるシーンがあるんですよ。ドアって昔の唐紙か何かのやつですけど、この襖の開け方と締め方がめちゃくちゃ上手かったんですよ。僕なんかバーンときてね、宮崎駿に「あれ誰が描いたんですか?」って。そしたらすごい喜んで「あ、分かった?あれいいよね。」って。僕らが何見てるかってそういう所なんですよね。そういうのが所謂表現なんですけど偶然生まれたり色んなことで生まれますよね。でもそういうのが多くある作品の方が面白いですよねやっぱり。そう思いますけどね。なかなか簡単じゃないですけどね。だけど全体がどうなるかっていうのは本当に分からないんですよ。

さっき宮崎吾朗が CG やってるって言ったけどそこのスタッフがやたらいい感じなんですよ。それで気なったの。で、聞いてみた。そしたらナントカ君っていうのが来たら皆集まって来るんですよ。「あいつがやるなら俺もやる」って。そうすると全体がいい雰囲気になるんですよね。だから僕もつい行っちゃうんですよ。彼らって向こうから声掛けてきますよね。だからやりやすいですよ。そういうことはあります。自分が作ったものを「ちょっと見て下さい」って。見てたら結構良いんだよね。

今回の特別授業はアニメーションを学ぶ私達にとって、非常に貴重な経験となりました。長年アニメーションの世界を見てきた鈴木さんのお話からは、業界秘話だけに留まらないクリエイターとしての心構えの様なものが垣間見え、特に禅などあらゆる分野の知識を柔軟に生き方に取り入れている様子が印象的でした。今後私達が活動していく上での財産となったことは間違いなく、何より大きなエネルギーを頂いた様な気がしています。

鈴木さん、本当にありがとうございました !!!

鈴木敏夫さんインタビュー

特別授業後 記念撮影


この授業の模様は、ラジオ番組「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」にてオンエアされます。
9月16日(日)23:00-23:30(予定)
TOKYO FM/JFN38局
https://www.tfm.co.jp/asemamire/