東京藝術大学 美術学部 デザイン科 Tokyo University of The Arts, Department of DESIGN

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学生の声 #03:那須 響さん、服部 咲良さん(学部2年)

2023-08-09

「学生の声」では、学部デザイン科・大学院デザイン専攻に在籍している学生に、学生生活や制作に関することをインタビューします。今回は、2022年度に入学した学部2年生の那須 響さんと服部 咲良さんに、主に学部1年時の藝祭のことについて語っていただきました。

お二人は、昨年度の藝祭で法被の制作をされていました。どのような法被を作ったのか、テーマやこだわりも含めて教えてください。

那須

藝祭では毎年学部一年生が、科ごとに自分たちで作った法被を着て、自分たちで作った御輿を担ぐ「御輿パレード」というイベントがあります。法被は、このパレードに統一感が出るように御輿の意匠に合わせてデザインされます。

昨年のデザイン科の御輿のテーマは「蝶獣御輿」でした。ワニと蝶が組み合わさったようなかたちで、白を基調とした少しメルヘンなイメージが特徴の造形です。

服部

法被のデザインを描き起こす時に一番悩ましかったのは、御輿の雰囲気に合わせることだけ考えると、着る人を選ぶものになりそうだったことです。この問題は御輿のモチーフであるワニと蝶を抽象化して模様にすることで解決しました。

御輿のテーマを踏襲しつつも誰が着ても違和感のない法被になったと自負しています。

法被の制作ではどのような作業をするのでしょうか。

那須

私たちの法被の制作工程は、大まかに3段階に分かれています。1つ目は生地の選定。2つ目は、シルクスクリーンという技法を使って、柄や模様を手作業で刷る工程。そして3つ目が、模様を刷った布を仕立てる作業です。これらの作業を全て自分たちでやって完成です。

服部

一枚一枚が手作りですので、限られた作業時間でいかに効率よく作れるかも大切なポイントになります。特にシルクスクリーンの場合は、法被の柄に一色足すごとに作業が倍になります。ですので、私たちは思い切って刷り色をほとんど白一色に絞りました。

ふつうは色数が少ないと寂しい印象になってしまいがちですが、今回使ったのは透ける素材の布でしたし、色数が少ないことがかえって良い方向にはたらきました。

法被の版の図柄を手描きで制作している様子(学生提供)

透ける法被というのは、独特だった気がします。仕上がった法被に対する反応はどうでしたか?

那須

生地の選定にあたっては日暮里の繊維街に通いました。同じように見える生地にも微妙な違いがあり、インクの乗りやすさや透け具合などを確かめるために、さまざまな素材で実験を繰り返しました。

最終的に、透明な素材ならではの上品な印象の仕上がりになって嬉しかったことを覚えています。また、クラスメイトたちが仕上がった法被を思い思いに着こなしている姿はすごく素敵で、嬉しくて涙が出そうでした。

服部

「今までにない発想」「綺麗」などのお褒めの言葉をたくさんいただきました。他科の法被と並んだ時に異質な印象がして最高でしたね。

制作中のエピソードなど、ぜひ教えてください。

那須

法被制作は芸術学科・作曲科・弦楽科と一緒に4科の合同で行いましたが、他科の学生とここまで関わる機会はあまりないので、一緒に制作できること自体が特別でとても楽しかったです。

服部

御輿と法被の制作は、同じデザイン科でもそれぞれ別の班に分かれて作業をするのですが、お互いに制作現場を見に行って励ましあったことをよく思い出します。制作中は必死で振り返る余裕もありませんでしたが、今にして思うと少しずつ完成してゆく御輿や法被に心躍らせる時間が、青春だったなと感じます。

シルクスクリーンで透明な布に手刷りをしている様子(学生提供)

藝祭では他にどのようなことをしましたか?

那須

デザイン科一年生で前期の制作課題を発表しました。45人の作品が一度にまとめて展示される機会は少ないので、展示の企画をしてくれたクラスメイトに感謝しています。

服部

全員で展示したのは「100枚ドローイング」という課題です。100枚のドローイングを制作する、タイトル通りの課題です。さすがに45人全員が100枚ずつ展示することはできないので、1人あたり20枚を抜粋して展示しましたが、それでも45人分が並ぶと圧巻でしたね。

私はこの「100ドロ」以外にも、自主制作のイラストを展示していました。

受験生の頃も藝祭には来ていましたか?入学後初めての藝祭の感想も教えてください。

那須

藝祭には、今から4年前の高校3年生の時に一度来ました。法被を着た藝大生たちのキラキラしている様子が今も目に焼き付いてます。法被を制作する側になり、「同級生のみんなが最高の法被を着て、いつか見た藝大生たちのようにキラキラできるように」と頑張っていたので、辛いことも乗り越えられました。

藝祭初日の御輿パレードで雨に降られ法被の柄が落ちてしまうなど、色々なトラブルに見舞われてしまい大変でしたが、本当に楽しかったです。

服部

私はコロナ禍の前、高校2年生の時に藝祭に来ました。その時は藝大を受験するかどうかも決めておらず、そもそも藝大についてあまり詳しくもなかったのですが、御輿や法被を見て「藝大生はこんなすごいものを作れるのか……」と衝撃を受けた記憶があります。

入学後初めての藝祭では「本当に藝大に入ったんだ」と実感できて、とてもたのしかったです。御輿パレードが始まる直前のサンバが鳴り出し、一緒に合格した同じ予備校の友人と「2人で受かってよかったね」と言い合った瞬間は、本当に泣きそうでした。

藝祭では上野公園で御輿を使ったパフォーマンスをするのですが、私はその振り付けや構成なども担当しました。あいにくの土砂降りでびしょ濡れにはなりましたが、私たちのパフォーマンスのテーマと空模様がマッチしてたので、ある意味天候にも恵まれたとポジティブに捉えています。

完成した法被(学生提供)

影響を受けた作品や、お気に入りの作家について教えてください。

那須

好きな作家はルネ・ラリックです。彼が作る作品は虫や動物などがモチーフのものが多いのですが、私もそういった題材が好きなので共感する部分も多いです。香水瓶や宝飾などの繊細な仕事が本当に美しく、ときめきます。

また、受験生の時期には色々な美術館に行っていました。正直、よくわからない展示もありましたが、「いつか役に立つかな」と思いながら見ていました。実際、そういった蓄積が今役に立っている気がしますね。入学後に授業で、実際に見たことがある作品が扱われると、リアリティも増しますし、何よりわくわくします。

服部

好きな作家はティム・バートンです。彼の作風は不気味ですが、ただ不気味なだけじゃなく、たくさんの魅力を感じる世界観が大好きで、他には絵本作家のエドワード・ゴーリーも好きです。

また私は考えることと、人間が好きなのですが、哲学書を読んだり哲学の歴史を学んだりすることも私に影響を与えていると思います。色んな人の考えていることを知るのが、とても楽しいです。

藝大に入って刺激を受けたことや良かったなと思うこと、驚いたことがあれば教えてください。

那須

私はずっとデザイン科のアトリエで過ごしているのですが、クラスメイトの制作に向かう姿勢の違いが面白いです。私と同じく、アトリエでヒーヒー言いながら制作してる子がいたり、ご飯も忘れて朝から工房にこもりっきりで夕方に帰ってくる子がいたり、久しぶりに大学に来たと思ったら家で頑張りすぎてやつれてる子がいたり。

先生と課題の進捗状況を共有する「検討会」では、クラスメイトの日々考えてることを聞いて、視野や思考が広がっていきます。共に悩み、考え、動く友人の存在に「私も止まってられないな」と刺激されます。

服部

同じアトリエで制作する同級生たちには、今まで人に話しても伝わらなかった感覚や考えが当たり前のように通じて、とても充実したやりとりができます。例えば作品について軽く相談したら、私には思いつかないような提案をしてくれたり、何気ないアイディアが会話を通じて発展していくのがとても刺激的です。

デザイン科ではいくつかの班に分かれて行うグループ課題もあるのですが、全ての班の作品のクオリティが高いです。ただでさえ一人一人のレベルが高いので、グループで制作して力が合わさると最強ですね。

服部さん(左)と、那須さん(右)。デザイン科内の撮影スタジオにて

これからの大学生活で挑戦したいこと、楽しみなことはありますか?

那須

なんにでも挑戦していきたいです!藝大のデザイン科は2年生までは専門分野を決めずに横断的に学べます。今は自分を決めつけず、沢山動いて、沢山悩んで、少しでも多くの人と関わっていきたいです。

服部

ぜんぶ楽しみです!平面・映像工房や立体工房、AMC(芸術情報センター)に取手の共通工房…と、藝大にはたくさんの設備があるので、色々な素材や技法に触れて、自分を見つけていきたいです。

今年のデザイン科2年はイラストを描く人が多いので、そういった友人たちと自主制作も頑張りたいです。

これから藝大を受験する人に対して、一言メッセージをください。

那須

どんな状況も楽しんでください。また、苦しくても全力でもがく姿勢は、受験に限らず大学入学後も大切だと日々実感しています。受験勉強は、成功も失敗も全て自分の力となります。自分の力を信じて、自分らしさを大切にしてください。そして少しでも良いものが作れるように入試の本番、最後の1秒まで諦めずにもがき続けてください。

私は合計で4年間の受験生活を送りました。その間は本当に大変でしたが、最後まで諦めずに入学できて心の底から良かったと思います。

服部

偉そうに語るようで恐縮ですが、結局どうにかするのは自分自身です。誰かが決めたような正解を探すのではなく、修練をたくさん重ねてください。いかに自分自身と向き合い、いかに純粋に目の前の作品に取り組むかが大切だと思います。

大学生活は本当に楽しく、こんな素敵なクラスメイト達と共に大学生活を送れること、それ自体がこの大学に入る価値だなと課題の講評のたびに実感します。受験勉強を頑張って本当に良かったです。みなさんも頑張ってください。